half

「あつい」
　全身を汗で濡らした彼女は、吐き出すようにそう言った。
　からからと力なく羽を回し続ける扇風機もどこか暑さにやられているようで、どうにもこの部屋の中には生気というものがなかった。冷房をつければいいものを、彼女は机の上に鎮座しているリモコンには見向きもしない。ただ足が溶けたように、だらしなく風を送る扇風機の前で僅かながらの涼を味わうだけだ。熱中症対策だとか各地の最高気温だとか、暑さをより一層感じさせるような話題しか流さないテレビはとっくに消している。
　この夏一番の暑さ、なんて、今年に入って何度聞いただろう。七月頭から夏一番の暑さが来るなんてあり得ないから、まだまだ気温は高くなるはずだ。どこ行った梅雨。何故に雨が降らない。などとぶつぶつ呻きながら、彼女は今日の予定について思考を巡らせた。……何もない。これが春やら秋であれば気のままに外へ出たかもしれないが、この暑さで無意味に外出する気にはなれなかった。
「……あつい」
　いつもは暇潰しに大いに貢献してくれるパソコンも、この暑さの中起動させるわけにはいくまい。これ以上部屋の気温を上げるほどの忍耐力はないのだ。
「あつい……」
　返事はない。一人きりのこの部屋で音をたてるのは、彼女と、扇風機だけだった。エアコンはつけない。何かしらの科学技術が用いられた冷風は身体を壊すだけだ、ただでさえ冷え性なこの身体を悪い意味での冷えに晒して更にそれを悪化させるわけにはいかない、冷房の効いた部屋にいると夏バテになってしまう、という彼女の持論からだった。大層な持論だが、その実しかし、電気代がもったいないという、いたく現実的でみみっちい理由が背景にあったりする。ケチではない、倹約家と呼べ。彼女の口癖である。
「あつい、あつい、あつい！」
　我慢できなくなった。携帯と財布と部屋と車の鍵をひっ掴んで立ち上がる。
　あいつなら多分家にいる、あたしとあいつの仲だしいきなり訪ねても多分怒られない、もしかしなくてもお茶がでてくる。そんなことを考えながら、彼女はふとカレンダーに目を留めた。
「……あ、今日あいつの誕生日じゃん」





＞いや、書き始めたのは１ヶ月ちょい前だったんだ。オチが決まらなくて、しかもなんかまだ続きそうな感じ。いや、続くかは謎←